中国人の思考法が「平面的」なのに対してヨーロッパのそれが「立体的」であることに触れましたが、その特徴は絵画にも表れています。
中国の伝統的な水墨画や水滸伝、三国志などの「挿し絵」には、西洋画に見られるような「陰」がありません。「陰」がないということは、つまり「奥行き」がないということであり、「平面的」ということになります。
16世紀末に中国にやってきたヨーロッパ人宣教師のマテオ・リッチは、中国にさまざまなものを持ちこみ皇帝に献上しました。
プリズムなどのガラス製品、地球儀や天球儀といった天文機器類、聖書、時計、天主像(キリスト像)、マリア像などですが、初めて天主像を見たときの皇帝の驚きは計り知れないものがあったようです。「これはまさに『生き仏』だ」と、皇帝は絶句したそうです。また、マリア像を贈られた皇太后は、それがあまりにも「リアル」なため、恐くなってそれを宝物庫に納めて鍵をかけて封印し、二度と見ようとはしなかったといわれています。
この「中国人もびっくり」させた西洋画の手法とは、「陰」を持つ「遠近法」です。中国人はこれを「凹凸」という言葉で表現しました。
「遠近法」は、ひとつの「焦点」を持っています。その焦点が立体感をもたらすわけです。ところが中国の伝統的な絵画には「焦点」というものが存在しません。一点に焦点を合わせるということがないのです。「散」といっていいでしょう。中国の小説に主人公が存在しないのも、建築物が横に広がって「散らばった」形になるのも、ここに理由があるのではないでしょうか。