最近は中国でも「スターバックスコーヒー」をいろいろな町で見掛けることができます。店に入ると“欢迎光临!”(いらっしゃいませ)と笑顔で迎えられます。“今日咖啡”(今日のコーヒー)や“摩卡”(モカ)など、出てくるものも日本やアメリカと違いはありません。
ただ、そこで使われる“下午好!”というあいさつには、いささか戸惑ってしまいます。
“你早!”(おはようございます)や“晚上好!”(こんばんは)であれば違和感はないのですが、“下午好!”は、本来の中国語にはなかったあいさつ語のように思えます。
これはもちろん、英語の“Good afternoon !”の中国語訳でしょうし、これから中国ではごく普通のあいさつ語として定着していくのかもしれません。でも、どこか「座りが悪い」というか「しっくり」こないのです。
以前、アメリカに滞在していたとき、面白い経験をしたことがあります。ボストンからセーラムの列車の中でのことです。検札の車掌が検札後に言った言葉が“Good afternoon !”だったのですが、その時間が問題なのです。なんと、午前10時過ぎでした。でもしばらく考えて、その謎が解けました。これが英語と日本語、中国語の違いなのだと。つまり、英語の“Good afternoon !”とは、「よい午後でありますように!」という「将来希求型」であるのに対し、日本語や中国語では「いい午後ですね!」という「現在確認型」ということなのです。
となると、“Good afternoon !”の中国語訳として“下午好!”は正しいのか、それが本当の意味での「翻訳」といえるかどうか。さらには「翻訳とは何か」ということを、もう一度考えてみる必要があるように思うのです。