第6回 上海のお医者さんと今回受診した脳神経科――日本人家族のとある日常in上海

今日は上海の医療事情についてお話ししたいと思います。

上海といえば中国の中でも日系に限らず、世界各国からの駐在員が集まる街として有名です。
それに伴って海外のお客さんを対象としたサービス業や飲食店も多いです。
前回お話しした美容院もその一つです。

今回のテーマは上海の医療サービスについてですが、医療施設に関しても海外からの駐在員向けの病院が上海には多く存在します。

その中でも特に日本人向けの病院について、今回お話ししたいと思います。

以下が、在上海日本国総領事館のホームページに紹介されている上海にある病院リストです。

https://www.shanghai.cn.emb-japan.go.jp/insurance/info-j1new.html

これらの病院では風邪やちょっとした体調不良などで受診する内科から、皮膚科、眼科、美容外科、歯科など、一般的な診療はほぼ全て日本語で受診することができます。

大抵の日本人向けの病院は中国人と日本人の先生両方が在籍していたり、中国人の先生も日本の大学で教育を受けた方や日本の医療関係にお勤めになっていた方だったりすることが多いです。
なので中国人の先生も日本語が喋れることがほとんどです。

うちの家族はこれまで自分自身も含め、健康診断、歯科、内科、皮膚科、耳鼻科、眼科、血圧などで上海のいくつかの病院にお世話になりました。

歯科は3ヶ所、内科は2ヶ所、そして皮膚科、耳鼻科、眼科はそれぞれ専門の病院にかかりました。
全て日本語が話せる先生がいらっしゃる病院です。

子供達や夫、そして自分がこれまで受診した経験を踏まえ、上海で受ける医療についての感想は、総じて「日本と変わらない」です。

処方される薬も日本でも馴染みのあるお薬や、日本と中国の合弁会社によって製作されているお薬など様々です。

漢方を処方してくださったこともありました。

先ほど、上海で受ける医療サービスが日本と変わらないと申した件で一つ明記する点は、上海の全ての医療機関で受ける診療が日本と変わらない、ということではなく、上海で日本人を対象として運営されている病院が提供する一般的な診療に関しては、日本と変わらないサービスが受けられる、ということです。

私たち家族は現地の病院に通院したことがないので、現地の方々が通院されている病院に関しては全くわかりません。

私たち家族が上海に来てから1年が経ちましたが、これまで通院といっても歯医者で4、5回連続でお世話になるくらいで、ほとんどの場合が単発の一般診療と呼ばれる内容での受診でした。

しかし今回、新たに『脳神経科』を体験する機会があったので、その経緯と受診内容について少しお話ししたいと思います。

主人がこちらに来て少し経った頃(主人は家族より半年早く上海に来ているので、一昨年前の暮れ頃の話です)、突然急に地面が浮いたような感じがして、同時に目がすごく眩しくなる、といったようなことがあったそうです。

それからも何度か同じような症状が出ていたようで、血圧のせいかな…、それともストレスかな、と話していました。

風邪でお医者さんにかかった時についでにその症状についても相談してみたようなのですが、その時は耳鼻科か眼科に行ってみてください、と言われたそうです。

私たち家族が上海に来てからも時々「今日また目が眩しくなるようなのがあった」とか「今日はなんかすごくひどい」と話すことがあって、それでも家族から見て全く変わらない生活ができているように見えたので、特に心配することもなく、環境変化や仕事による精神的なものからくる症状だろうと思って過ごしていました。

2週間ほど前に「頭が重たいのがここ数日でひどくなった」と夫が言い始め、これは前からだったようですが、パソコンの画面を見ているとすぐに目がつらくなってきて、今では何もしなくても涙が出てくると言いました。

自分でもこれはちょっとおかしいと思ったようで、地元のいつもお世話になっている日本語が通じる地元のお医者さんに相談し、CTを撮ろうということになりました。これが4月13日土曜日のことでした。

こちらの医院と提携している地元の総合病院にCT検査の予約を取り、3日後に検査を受けに行きました。
検査の日はその医院の受付の女性がタクシーで一緒に付いてきてくれて、検査中も全部通訳をしてくださったそうです。

4日後、検査の結果を地元の医院に聞きに行きました。この日本語が話せるお医者さんは脳外科の専門医ではありません。
なので基本的に、検査結果と一緒に送られてきた専門医の所見をもとに説明を受けるという流れでした。

そこで言われたことが「ちょっと小さな影があるね」でした。
またすぐにMRIを撮るように言われ、今度はMRIの予約を取ることになりました。
ところがMRIの予約がいっぱいで、一番近い日にちで取れたのが5日後の4月25日木曜日でした。

この間本当に生きた心地がしなかったというか、主人は日々症状が悪化しているようにも感じると言うし、自分もインターネットで調べるとネガティブなことばかりが目に入って、この5日間は本当に何も手につきませんでした。

最悪のことは考えないようにしようと思う気持ちと、心の準備をしておくべきだと思う気持ちとが入り混じって、大学も辞める事になるんだろうなぁとか、子供たちの来年度の学費の支払いがまだでよかった、とか…。本当にくだらないことから深刻なことまで、いろんなことが頭の中をめぐりました。

MRIの検査を受けに行く際も、地元の医院の受付の今度はまた別の女性スタッフの方が同行してくださいました。

検査を済ませて家に戻ってきた夫が
「もぅあとは結果を待って、治療するなり日本に帰るなり決めるだけだ」
と話していました。

検査を済ませた夫が少し気分が楽になったと言っていて、どうやら話を聞いていたら、検査に同行してくださった医院の女性スタッフの方からの言葉のお陰で、夫の気持ちがだいぶ和らいだようでした。

タクシーで一緒にMRIを撮る総合病院に向かっている行きと帰り道、いろんな会話をしたそうです。

その女性が河南省出身で上海には15年前に来たとか、河南省は少林寺が有名だとか、こんな河南料理は食べたことがあるか、などなどいろんな話で盛り上がったようです。

夫も営業職の人間なので、とにかくよくしゃべる。ネタが尽きない。

そんな中、その女性スタッフが帰りのタクシーで夫にこう言ったそうです。

「東山さん、大丈夫ですよ。本当にひどかったら検査終わってすぐに担当者から連絡がきますから」

病院から帰宅した夫は、今日これから連絡がきたりして、と冗談半分で言っていました。

検査結果はMRIを撮った次の日の夕方までには地元の医院に送られるということでした。

金曜日の仕事帰りに結果を聞きに行こうと夫に言ったのですが、前日検査で会社を休んでいるので、おそらく金曜日は帰りが遅くなるということで、土曜日の午前に自分も地元の医院に一緒に結果を聞きに行く事になりました。

金曜日の夜8時ごろ、帰宅途中だった夫から「今日もいちおう(病院から)連絡なかった」とショートメールが入りました。
やはりこの日も一日ずっと気になっていたんだろうと思いました。

結果を聞きに行く日の朝、病院までの道のりを歩きながら
「日本で起こるならまだしも、まさか上海来てこんな事になるとはなぁ…。日本だったらもうちょっと心配も少なくコトが進められるんだろうに」
と夫が話していました。

今回もし手術となった場合、日本で手術するべきか、日本や中国の脳神経外科の技術レベルや症例数、両院の医療設備機器など、短時間に色々調べました。

中国はここ数年で大きく発展し変化が早いので、ちょっと前の情報がどのくらい参考になるのかもわかりません。

でもやはり様々なことを考慮し、もし手術となった場合は日本でやろうと夫に言いました。

医院に着いて間もなく名前を呼ばれ、先生の部屋に入りました。
この先生は大阪の病院に長くいらっしゃったそうで、関西弁を話される年配の中国人の先生でした。

部屋に入るなり先生から「ではドアを閉めて」と言われました。

ドアを閉める。。。これはきっと周りに聞かれないようにといううちらへの配慮だ…と思い、さらに不安になりました。

そして夫と自分が椅子に座り先生の方を向いて話を聞く体勢が整った時、先生がまず第一声に
「大丈夫、今回の件、すぐに手術しないとならないとかっていうことはないから」
とおっしゃいました。

MRIの診断結果をもとに先生が訳してくれた病名が『隠れ脳梗塞』でした。
そして過去に脳梗塞を患った跡がある、とも言われました。

MRIのフィルムと一緒に送られてきた所見が書かれた紙を見せてくれながら、
「これは日本語では、ん〜、こんな漢字日本語であったか?この字わかる?」
と言いながら説明してくれました。

ひとまず自分が想像していた最悪な状況ではなかったことで安心しました。

他にも色々と話をしたのですが、検査結果に比べたら全てが重要でなく感じました。

今回の結果を受け先生と相談し、今ある症状については今後こちらの医院で治療を受けていくことにしました。

『隠れ脳梗塞』で調べると、症状がない脳梗塞と出てくるのですが、夫は明らかに症状があるのですが、ん〜、、とにかく今回は深刻な脳腫瘍などではなかったということでひとまず安心しました。
この件、これから治療を受けていく中で変化があればまた書きたいと思います。

今回は、夫が経験した体の不調や、その件で上海で受けた検査や医療サービスについて少し詳しく書きました。

風邪や虫歯などで病院にかかる分には、日本人にとって上海は全く不便のない場所だと思います。

そして脳神経科といったようなちょっと特殊な診療に関してですが、こちらも日本語が通じる医院を通して一通りの検査や受診ができるということを、今回皆さんにお伝えしておきたいと思います。

今回の病気がもし深刻なものだったと仮定して、MRIの予約が一番近くても5日後にしか取れなかったことは、ちょっと不安材料になるかなと思いました。
日本ではどうなんでしょうか。日本ももしそんなものだとしたら、特に上海だから不安だ、ということではないですね。

もし今回の夫の病気がもっと深刻なものだったとした場合(例えば悪性の脳腫瘍など)、手術は日本で受けようと考えていました。

その理由はやはり言葉の問題や、手術後おそらく生涯続く病院との付き合い、それから万が一何かが起こった時(例えば医療ミスなど)の対応が、やはり国が違うと色々と難しいだろうと思ったからです。

脳神経外科の症例数や術後の生存率など、自分の言語能力的な問題もあり、中国の病院のデータを探すことができなかったことも、手術は日本の病院でと思った理由の一つです。

言葉の壁は本当に色々なところで不安材料をもたらしますね。

今回夫がCTとMRIの検査でお世話になった病院は、上海の長寧区にある『武警上海市总队医院』という病院です。
CTの機械は東芝製だったよ、と夫が言っていました。

検査機器に関しても検査結果の所見にしても、自分たちはさっぱりわかりません。
なのでこれらに関しては何も言うことができません。

地元の日本語が通じる病院の先生が夫に
「もし不安であればこれ(CTとMRIの結果データ)持っていって、日本でもどこでも見てもらうこともできるから」
と話していました。

それを聞きながら、日本にも長くいらっしゃって、なおかつ上海でずっと日本人の患者さんを診てこられているお医者さんなので、やはり日本人が深刻な病気で中国の医療機関にかかった時の不安が拭えない心情を理解されているんだろうなぁ、と思いました。

今回の結果に関しても今後受ける治療にしても、全面的にこちらでかかっている先生を信じてやっていこうと夫も自分も思っています。

上海は羽田から飛行機で3時間。
チケットにしても、翌日の飛行機がどれもいっぱいで取れないということもあまりありません。

万が一の場合には、日本の病院を受診するために平日とんぼ帰りすることも可能だと思います。

これまで病気とは縁のなかった方でも、40代から50代にかけて身体に不調が現れることは珍しくありません。

海外転勤中にまさか大病をするなんて、と思うかもしれませんが、赴任中だからといってそうならないという根拠はどこにもなく、むしろ環境変化による精神的ストレスや食の変化などからもたらされる身体への負担は、国内の移動に比べはるかに大きいと思います。

中国に来たばかりの頃は、中国で歯医者に行くとちっちゃな虫歯でも抜かれる、とか色々な噂を耳にしました。
中国の医療は日本と比べて10年は遅れている、という話も聞いたことがあります。

実際にうちの家族が上海で病院にかかった経験から申し上げますが、一般診療に関しては日本と変わらないサービスが受けられます。

歯科も日本の大学の歯学部を出られた日本人の先生、中国人の先生、中国の大学の歯学部を出られた中国人の先生それぞれから治療を受けたことがありますが、うちの家族が受診した病院はどれも日本で行っていた歯科医院と設備面では変わりはなく、また治療内容に関しても特に違いは感じられませんでした。

10年前の日本の医療を考えて、上の子が現在17歳なので彼が小学校1年生だった頃小児科にかかった時の記憶を思い返し、、、うちの一番下の今7歳の娘が去年上海に来る前に日本の小児科を受診した際に受けた処置と、10年前に7歳だった長男が小児科で受けた処置はほんど変わっていないように思います。

最先端の医療技術に関しては、日本と中国の違いについて調べきれませんでした。
なので自分が調べた範囲で、情報が明らかである日本の方が安心できる、だから手術するならば日本でやろう、という結論に自分と夫はたどり着きました。

上海に転勤で来られている方達は、だいたい3年から5年くらいこちらに滞在されるケースが多いのではないかと思います。

3年や5年もいれば様々なことが起こりますよね。
日本で生活していた頃に一度も起こったことのないような病気や事故が、たまたま海外滞在中の短い期間に起こったりすることもあるかと思います。

もし読者の皆さんの中で中国に転勤が決まって、もしくは中国に来たばかりで、中国の医療サービスに何かしら不安があるとするならば、今回のこの記事が少しでも参考になれば嬉しいです。

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東山志帆上海交通大学外国語学院博士課程

投稿者プロフィール

 現在、上海交通大学外国語学院博士課程に在籍。研究分野は多文化的アイデンティティー、異文化への順応、教育機関における多文化的アイデンティティーを持つ児童生徒学生たちの脆弱性、異文化理解教育、教員教育、日中間の更なる相互理解など。2018年4月に夫の転勤に伴い、17歳、15歳、13歳、7歳の子供たちと共に上海に移住。中国に来る以前にカナダでの育児経験もあり、著者自身学生時代をカナダで過ごす。日本在住中は塾や公立中学校の英語科非常勤講師としてこれまで約15年間にわたり教育に携わってきた。日本社会、特に教育機関における帰国子女や今後日本でさらに増えるであろう海外からの留学生や移民の子供たちに対する更なる理解やサポートの充実化、日中の相互理解に向けた取り組みや双方の留学生交流の促進などが現在の主な研究テーマ。

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