第1回「足場」――日本人家族のとある日常in上海

はじめに

 インターネットやスマートフォンの普及によって世界のニュースや情報がいつでも入手できるようになった。翻訳ソフトの発達によってこれまで全く勉強したことがない言語で書かれた記事でさえ読むことができるような時代になったわけだ。
 ここ十数年で世界の国々の距離感がグッと縮まったかのように思えるが、一方で国同士の争いやいがみ合いは一向に途絶えることがないのが現状である。

 情報がいくらあっても人はきっと見たいものしか見ないのかもしれない。
 もしくは見たいようにしか見ない、見えないのかもしれない。
 異国に関するニュースや異文化について、私たちは外側から見たり考えたりすることが多い。『アフリカは暑い』『中国料理といえば餃子と麻婆豆腐』など、教科書やニュース、メディアから得られる情報をもとに私たちは他国、他国文化についてあれこれ思いを巡らせる。
 言い換えれば、これだけ情報が溢れている世の中であっても、未だに多くの人々は自分が捉えたイメージや固定観念をもとに世界を見ているのではないだろうか。

 最近教育界でもよく耳にする“Critical Thinking”という言葉。日本語では『批判的思考』と訳されたりする。
 情報化社会、情報過多の今日において私たちに求められる能力、それは自分自身で情報を選別し正しいもの、そうでないもの、自分にとって必要な情報と不要なものを選別する判断力である。そして与えられた多くの情報の中からそれらの真偽生、要不要を判断、選別する上で不可欠なのが批判的思考、すなわち“Critical thinking”だ。

 この連載の中では中国の上海という街を主に紹介していく。内側から見る上海。それはもしかしたら外側から見る上海とはまた違った顔をしているかもしれない。同じものを見るにしても別の角度から見てみることで、それまで気づかなかったまた別の理解、見解が生まれる。日本にとって近くにあって遠い国、実はとっても身近で関わりの深い国『中国』の皆さんの知らなかった一面をお伝えしていければ幸いである。

今日のテーマ『足場』

 今回はその記念すべき第一回。とは言え、日常の一コマをお伝えしていくのがこの連載の重要な趣旨です。
 なので大発見ばかりをネタにするわけではなく、たわいない日々生活している中でスッと目や耳に入ってきたことやもの、ちょっと気になったことなどを大切にしつつ皆さんにお伝えしていきたいと考えています。
 というわけで、今日のトピックは最近気になっている学校に行く途中で見かける工事現場の『足場』。笑

工事現場の足場

 私が在籍している上海交通大学は上海の闵行(閔行・mǐnháng)という場所にあります。
 私の住んでいる长宁区(長寧区・chángníng)の自宅から学校まで電車を使うと2時間くらい。この上海交通大学は徐家汇(徐家匯・Xújiāhuì)にもキャンパスがあり、キャンパス間でシャトルバスが出ていて、それに乗ると徐家汇から40分くらいで闵行キャンパスに着きます。なので自分はいつも家から電動バイクか自転車で徐家汇キャンパスまで行き、そこからシャトルバスで闵行のキャンパスまで通っているのですが、この写真は自宅から徐家汇キャンパスに行く途中で撮ったもの。なぜかここ2、3週間で建物の補修工事がいくつも行われ始め、歩道に竹の山が笑

竹の山

 竹の足場は昔日本でも使われていたと聞いたことがあります。
 中国ではまだまだ竹製の足場は健在で、さすがに何十階にもなるマンションには鉄製のものが使われていますが、低い建物には竹の足場が使われていることがほとんどです。

 この竹の足場、ただ足場を組むだけではなく、1階から2階、3階へと移動するようなスロープも本当に器用に作られています。
 鉄パイプで作る足場は歩くとカンカンカンという音がなるのが印象的ですが、竹の足場は音がしません。
 鉄パイプの足場で覆われた工事現場の近くを歩くと、なんだか上から金属の部品でも落ちてきそうな感じがしませんか?
 竹の足場の近くを通るとなんとなく自然の中を歩いているような雰囲気がします。さすがに切ったばかりでもないので匂いまではしてきませんが笑

 竹で覆われた建物はまた違った趣があって、工事中であるにも関わらずなんだかすんなりと街の景観の一部に馴染んでいるような感じがしないでもありません。
 上海の改修工事に関して一点書き加えると、改修工事をするにあたって日本の場合は周囲への配慮や安全面を考えて、建物全体をシートで覆うのが一般的と思うのですが、上海の場合は外壁工事をするにしてもシートをせずに工事を行なっているところをよく見かけます。街のどこかで大きな解体工事などが行われているとその一角が砂埃に覆われるというようなことがよくあります。上海に来たばかりの頃はそんな街の埃を見て「これが噂の大気汚染?!」と勘違いしたりもしていましたが、それは全く別物だったという話。

砂塵に覆われる街角

 日本もそろそろ筍の季節。上海では一年中筍がスーパーで売られています。筍の種類も太くて大きいものから細いもの、短いものと様々。
 竹製品も中国の生活には欠かせません。椅子や収納といった家具から蒸篭やまな板などの調理器具まで、無意識のうちに日々竹に触れています。
 足場に限らず、竹は今日も中国の人々の生活には欠かせない大事な存在なわけですね。

 ちなみにこの足場を見つけた法华镇路沿いにある兰州拉面屋さんに先日初めて入ってみました。

兰州拉面屋


 牛肉麺13元。注文後に麺を伸ばして茹でます。麺は太さが数種類から選べて、この下の写真にあるのは2番目に細い『二細』と呼ばれる太さ。
 一番太いものになると5センチくらいはある太麺という域を超えた一反木綿みたいな麺になります笑

 これまで上海と旅行先の南京とで合計5件ほど兰州拉面屋さんに入ったことがありますが、このお店は店内も清潔感があり値段も良心的で、味もしっかり目な感じで美味しかったです。
 牛肉麺の他に卵とトマトの刀削麺(18元)も注文したのがだ、これもボリュームがあって麺もモチモチで本当に美味しかった!

牛肉麺

 だんだんと春らしく暖かくなってきた上海は、なんとなく人も街も活気が出てきたように感じます。
 次回もお楽しみに。

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東山志帆上海交通大学外国語学院博士課程

投稿者プロフィール

 現在、上海交通大学外国語学院博士課程に在籍。研究分野は多文化的アイデンティティー、異文化への順応、教育機関における多文化的アイデンティティーを持つ児童生徒学生たちの脆弱性、異文化理解教育、教員教育、日中間の更なる相互理解など。2018年4月に夫の転勤に伴い、17歳、15歳、13歳、7歳の子供たちと共に上海に移住。中国に来る以前にカナダでの育児経験もあり、著者自身学生時代をカナダで過ごす。日本在住中は塾や公立中学校の英語科非常勤講師としてこれまで約15年間にわたり教育に携わってきた。日本社会、特に教育機関における帰国子女や今後日本でさらに増えるであろう海外からの留学生や移民の子供たちに対する更なる理解やサポートの充実化、日中の相互理解に向けた取り組みや双方の留学生交流の促進などが現在の主な研究テーマ。

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