A:まず、“老”lǎoと“小”xiǎoですが、これはごく親しい間柄で使うものです。したがって「〜さん」という訳は言わば苦し紛れの訳で、“老”や“小”の持つ親しさが十分表せているとは思いません。
“老”は目上の人を呼ぶ時に親しみと敬愛の念を込めて使います(但し女性に対しては“老”を避ける傾向があるみたいです)、“小”は目下や同輩の人に使います。
中国人の姓は“王”や“周”のように1文字であることが多いですが、中には“司马”Sīmǎのように2文字の人もいます。2文字の姓(2文字の姓を「複姓」といいます)の場合は“老”や“小”はつけません。これは中国語のリズムの問題でしょう。
“老”や“小”を1文字の姓につける呼び方はごく親しい間柄の呼び方ですから、会ったばかり人やたいして親しくもない人に対していきなり使うと、場合によっては相手が不快感を持つこともありえますので、気をつけましょう。
中国語には「〜さん」に当たるような幅広く使える呼び方がちょっと見あたりません。その人の肩書きであったり、その人と自分の関係、場面などによって、ふさわしい呼び方をするのが、人間関係の第一歩と言っても過言ではありません。
強いて言うなら、
大人の男性であれば、
〜先生〜xiānsheng
大人の女性であれば、
〜女士〜nǚshì
くらいでしょうが、もっと他に適当な言い方があればそちらを使うべきです。
(例)〜老师〜lǎoshī(〜先生、教職員に対して使う)
(例)〜经理〜jīnglǐ
“经理”は経営責任者という意味です。複数の“经理”の上に更に“经理”を束ねる人がいる場合は、“总经理”zǒng jīnglǐと言います。姓と続けて言う場合は、話し言葉では“王总”(王社長)のように言うこともあります。
相手をどう呼んでいいかわからない時は以下のように相手に尋ねてしまうのも一つの手です。
我该怎么称呼您呢?
Wǒ gāi zěnme chēnghu nín ne?
(何とお呼びすればよろしいでしょうか)
名前の呼び方から受ける印象も中国語と日本語では異なります。日本語ではフルネームの呼び捨てには抵抗がありますが、中国語では大学生同士であれば、フルネームを呼び捨てにしていることが多いようです。家族の中でフルネームの呼び捨てをしていることもあるそうです。
そういえば、日本で暮らす中国人の友人からこんな話も聞いたことがあります。日本では夫婦二人ともが犯罪の容疑者であった場合、新聞や雑誌で女性の容疑者のことを「○○子容疑者」のように姓をつけずに下の名前だけで表記することがありますが、その中国人の友人はどうしても違和感があると言っていました。中国語では下の名前だけで呼ぶのはその人との親密さや好感を表すので、犯罪容疑者にふさわしくないと感じたのでしょう。なお、中国では女性は結婚しても姓を変えません。
また、田中眞紀子氏が大臣だった時、新聞や雑誌で、姓をつけない「眞紀子大臣」という表記を見かけることがありました。私は女性の大臣に対する一種の揶揄のようなものを感じました。男性の大臣であれば下の名前+大臣という呼び方をされることはまずありえないからです。しかし、その中国人の友人は逆に田中眞紀子氏に対する親しみや好感を示す表現と受け取っていました。
中国語では相手をふわしい呼び方で呼ぶことが大切です。例えば、頼み事をする時はいきなり頼み事を言い出すのではなく、まず相手に呼びかけてから始めます。
中国の子供たちは小さい頃から相手をふさわしい言い方で呼ぶことをしつけられます。
中国の子供は大学生の皆さんのことをきっと
叔叔shūshu(おじさん)
阿姨āyí(おばさん)
と呼ぶと思います。
子供の側に親がいたら、
叫叔叔。Jiào shūshu.(おじさんと呼びなさい。)
叫阿姨。Jiào āyí(おばさんと呼びなさい。)
と子供に言うはずです。
「おじさん、おばさんと呼ばれるほどそんなに老けてない!」と腹を立ててはいけません。これは中国では世代の概念が大切だからです。おじさん、おばさんと呼べば、子供からすれば自分の親と同じ世代ということになり、敬意がこもっていることになります。もし哥哥gēge(お兄さん)や姐姐jiějie(お姉さん)と呼んだら、子供である自分と同じ世代ということになって、敬意が足りないことになります。
ちなみに、大人が幼い子供に呼びかける場合は、子供の名前を知らない場合は小朋友xiǎo péngyou
と呼びかけます。
[転載元]清原の中文教室 http://www.las.osakafu-u.ac.jp/~kiyohara/cgi-bin/sb/