第14回 元首たちの古典教養その8―――草树知春不久归,百般红紫斗芳菲―|現代に生きる中国古典

 2012年5月8日、北京で第四次米中戦略経済対話が開かれ、米中両国の関係発展と、あらゆる方面の長期的問題についての戦略的対話がなされました。当時の国家主席だった胡錦濤は、開幕式で式辞を述べ、その最後を次のように締めくくりました。

  我们所在的这个大厅叫芳菲苑。中国唐代诗人韩愈有两句诗:“草木知春不久归,百般红紫斗芳菲。”意思是时不我待,必须奋发进取。中美关系正面临进一步发展的机遇,同时也面临新的挑战。让我们抓住机遇,排除干扰,共同努力,走出一条相互尊重、合作共赢的新型大国关系之路。预祝第四轮中美战略与经济对话取得圆满成功。

 私たちがいるこの広間は「芳菲苑」と言います。中国唐代の詩人である韓愈に「草树知春不久归,百般红紫斗芳菲。」という詩があって、その意味は、時間は人を待たないのでチャンスを逃さず、積極的に行わなければならない、ということです。米中関係は、まさにさらなる発展の好機にあります、同時に新たな挑戦にも直面しています。チャンスを掴み、障害を除き、共に努力することで、相互に尊重しあい、協力して共に勝利する新たな大国関係の道を歩みましょう。第四次米中戦略経済対話の円満な成功を祈念します。
(胡锦涛「推进互利共赢合作 发展新型大国关系」より)

 胡錦濤が引いたのは、韓愈の「晩春」という詩です。韓愈は文章家として有名ですが、数多くの詩も残しています。以下に「晩春」を挙げます。

   草树知春不久归, 草木は春が間もなく去ることを知り
   百般红紫斗芳菲。 赤や紫の花々は美しさを競い合う
   杨花榆荚无才思, 柳絮や楡の実は花のような才覚(美しさ)はないけれど
   惟解漫天作雪飞。 空いっぱいに雪のような綿毛を飛ばすことだけは知っている

 韓愈の詩は、「晩春」のタイトルが示すように、春の終わりが近づき、春のうちになすべきことを知る草木が、チャンスを逃すまいと花を咲かせ、花をつけない柳は綿毛を飛ばし、楡は銭の形をした実を捲くという、晩春の草花を詠んだものです。
 胡錦濤は、自身の言葉通り、春を逃さず咲く花のように、時期を逃さず、その時に頑張ってするべきことをする、つまり、この会議で米中両国の関係をより発展させるよう機会を逃すべきではないという意味でこの詩を引用しています。胡錦濤が、演説で古典を引用した記録は、他の元首たちと比べるとそれほど多くありません。しかし、春の風景を描いた詩を、建物の名前とかけて、好機を捕まえて事を為す意味に仕立て直した機智は、胡錦濤の優れた古典運用能力を物語っています。

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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