- Home
- カラダと病気の中国語:第1回 病気は風のイタズラ―「風邪」と“感冒”
カラダと病気の中国語:第1回 病気は風のイタズラ―「風邪」と“感冒”
- 2014/5/27
- カラダと病気の中国語, 岡本悠馬
- 感冒, 病気
- カラダと病気の中国語:第1回 病気は風のイタズラ―「風邪」と“感冒” はコメントを受け付けていません
日本語では病気の「カゼ」を「風邪」と書く。これは一体なぜなのだろう。
江戸時代まで、日本は中国由来の医学(漢方)が正統な医学だった。中国医学では、外から来る病気は風(ふう)、寒(かん)、熱(ねつ)、湿(しつ)などの「邪気」が体に取りついて引き起こすものだと考えられている。寒の邪気なら「寒邪(かんじゃ)」、風の邪気なら「風邪(ふうじゃ)」で、これが体に入ることで「カゼ」の症状が引き起こされるというわけだ。病気の原因を指す言葉が、病気そのものを指すようになったようだ。
一方、中国語では「カゼ」を“感冒 gǎnmào”という。日本語でも「総合感冒薬」のようにやや改まった言い方として使われる。“感冒”という語は、「感じる」、「(病に)冒される」という意味の漢字二文字からなる。私は「冒を感じる」という動詞+目的語の構造だと思っていて、「“冒”って何の病気だろう?」と疑問だった。よく考えてみれば、“感冒”は“×感一次冒”のような離合詞にもなれない。
現代中国語では、この“感冒”だけで「カゼをひく」という動詞になり、後ろに目的語はつかないが、昔の中国語には、“感冒风邪”(風邪に冒される)の様な他動詞的な用法もあった。
“感冒”はかつて、カゼに限らず、何らかの病に冒されるという意味で広く病気になることを意味した。昔のことだから、今のように簡単に病気の原因を特定することはできなかったのだろう。インフルエンザのように次々と伝染していく「感冒」は、“流行性感冒 liúxíngxìng gǎnmào”、略して“流感 liúgǎn”と呼ばれるようになった。
「風」は姿が見えず、何かを運んでくるものという連想から、「風は百病の長」とされ、病気をもたらすものとされている。
風を使った病気の表現には、他に脳卒中を表す「中風(ちゅうふう、ちゅうぶ)」/“中风zhòngfēng”がある。脳血管に障害の起こった人が、突然何者かに襲いかかられたように倒れてしまう様子から連想されたものだろう。ここでの“中 zhòng”は「命中する」、「当たる」という意味なので、第4声で読まれる。
尿酸が蓄積して関節が痛む「痛風」/“痛风 tòngfēng”や、傷口から細菌が入って起こる「破傷風」/“破伤风 pòshāngfēng”も同様に、「風」のしわざだと考えられたようだ。中国語では、有利な情勢の到来を“东风”(東風)と表現するが、風は幸せも不幸も区別なく運んでくるのである。
体、病気というのは人間が生まれてから死ぬまで、一生ついて回る問題だ。当然、言語表現にはその言語の話し手がどのように体を見ているかが反映される。このコラムでは、体と病気に関する中国語の表現について考えていきたい。
[参考文献]
立川昭二 2000 『からだことば』早川書房
山田慶兒 1999 『中国医学はいかにつくられたか』岩波新書
北京中医学院ほか(編) 1964 『中国鍼灸学概要』人民衛生出版社