第28回 元首たちの古典教養その15――长风破浪会有时,直挂云帆济沧海。

 2016年11月21日、習近平はペルーで演説を行い、中国とラテンアメリカの結びつきを更なるものにしようと呼びかけました。

“长风破浪会有时,直挂云帆济沧海。”包括中国和拉美国家在内的广大发展中国家面临着开辟增长源泉、拓展合作空间、实现更高水平发展的难得机遇。中拉已经站在新的历史起点上,让我们共同打造好中拉命运共同体这艘大船,引领中拉友好关系驶入新的航程。
「長風が荒波を突き破る時はきっと来る、船に帆を揚げてこの海原を渡らん」です。中国とラテンアメリカの国々を含む、大きく発展を遂げた「中国家」は、成長源の開拓・協力できる分野を拡大し、さらに高いレベルの発展を実現する得がたいチャンスに直面しています。中国とラテンアメリカはすでに新たな歴史の出発点に立っています。共に中国とラテンアメリカの運命共同体というこの大船を作り、中国とラテンアメリカの友好関係を新たな航程へと引き入れようではありませんか。
(习近平「同舟共济、扬帆远航,共创中拉关系美好未来」より)

 習近平が演説で引いた「长风破浪会有时,直挂云帆济沧海。」は、唐の詩人李白の「行路難」詩に由来しています。李白は、役人として成功することを夢見て長安の都に行きましたが、望みどおりにはゆかず、長安を離れることになります。「行路難」詩は、この失意に沈む李白が詠んだ作品です。

金樽清酒斗十千, 樽の美酒は一斗で万金の価値があり
玉盘珍羞直万钱。 皿に盛られた珍味は万の銭に値する
停杯投箸不能食, 食事の手は止まり何も喉を通らない
拔剑四顾心茫然。 剣を抜き四方を見回し、茫然とする
欲渡黄河冰塞川, 黄河を渡ろうにも氷が河をふさぎ
将登太行雪满山。 太行山を越えようにも高く雪がつもる
闲来垂钓碧溪上, のんびりと渓川で釣り糸を垂れて
忽复乘舟梦日边。 また船に乗り長安へ行くことを夢見る
行路难。行路难。 我が歩む道は険しく厳しい
多歧路,今安在。 岐路が多く、私はいまどこにいるのだろうか
长风破浪会有时, 長風が荒波を突き破る時はきっと来る
直挂云帆济沧海。 船に帆を揚げてこの海原を渡らん

 人生を旅路に例える表現は古今東西様々な文学作品で見られます。「行路難」詩の、行く手をふさぐ険しく、厳しい道は人生の困難の比喩であることはいうまでもないでしょう。「行路難」詩には、役人としては成功しなかったが、この難局を乗り越えて更なる飛躍を遂げんという李白のあふれる気概が詠み込まれています。

 習近平は、中国とラテンアメリカが、抱える様々問題を乗り越え、より強固な関係を築こうと訴えてこの詩を引いたのでしょう。

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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