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第26回 元首たちの古典教養その14――十年磨一剑|現代に生きる中国古典
- 2017/1/20
- 現代に生きる中国古典, 西川芳樹
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koten0026
近年、日本では学術論文の不正が問題となっています。中国でもこのような問題は起きていて、その最も有名なものに「漢芯事件」があります。これは、上海のある大学教授が革新的な性能を持つ半導体の製造法を開発したと発表し、それを受けて中国政府も国を挙げてこの研究を応援し巨額の研究費を投入したが、後になりこの研究成果が虚偽のものであると発覚した事件です。
これに対して時の総理大臣であった温家宝は、次のようなコメントを残しています。
この演説の中での「十年磨了一个剑」という言葉は賈島の詩「剣客」を踏まえたものです。賈島は中唐の詩人で、日本では「推敲」の故事でおなじみです。以下、「剣客」の詩を紹介します。
雄壮で侠気溢れる剣客の姿が浮かんでくる詩です。第一句目の「十年磨一剑」は、いまでは「長い時間をかけ苦労して磨き上げる」、「一意専心にものごとに取り組む」という意味で使われています。この言葉は、温家宝が使ったように「十年磨了一个剑」の他に、原典通り「十年磨一剑」、成語化して「十年磨剑」などの言い方があります。
「推敲」の故事では、賈島は詩のたった一字について「推」と「敲」の文字のどちらがふさわしいかを夢中になって考え続けました。そして、賈島は科挙を三十年間受け続けた人でもありました。「十年磨一剑」はまさに賈島の人柄を表した言葉ではないでしょうか。
温家宝が使った「十年磨一剑」は、もちろん、学問にとりくむ姿勢を述べたもので、ひと振りの剣を十年にわたって研ぎ続けるように、慌てて成果を求めるのではなく、倦まず弛まず着実に学問を積み上げていけば、大きな成果を得られるだろうという意味です。この言葉は、科学者だけではなく、あらゆる仕事や学問、スポーツなどあらゆる方面につうじることではないでしょうか。
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