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第17回 枕を高くする|現代に生きる中国古典
- 2016/2/17
- 現代に生きる中国古典, 西川芳樹
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先日、友人と話している時のこと、「枕を高くする」という言葉があるが、どうして「安心する」と言う意味になるのだろうか、枕が高ければ、かえって寝づらいだろう、と話題になりました。
「枕を高くする」は、「何の不安もなしに寝る。安心して寝る。転じて、安心する。」(『大辞林』より)という意味です。この言葉は、『楚辞』、『戦国策』、『史記』などの書物に見えることから、戦国時代から前漢にはすでに使われていたと分かりますが、この言葉の由来となった故事を特定することはできません。そこで、今回は、この言葉が使われた有名な話を紹介することにしたいと思います。
戦国時代、秦、楚、斉、燕、趙、魏、韓の七国は、己こそが覇者たらんと、しのぎを削っていました。しかし、秦が次第に国力を増し、他の六国は秦に脅かされるようになります。縦横家の蘇秦は、秦を除く六国に同盟を結ばせ、協力することで秦に対抗しようとします。これを「合従」といいます。秦の大臣であった張儀は、秦と六国がそれぞれ単独で同盟を結ぶことで、六国の同盟を解体し、秦の優位を回復しようとします。これを「連衡」といいます。張儀は、連衡を実現するため、各国におもむき王を説得して回ります。
張儀は、魏を合従から切り崩すために、魏王に周辺国の韓や楚と同盟を結ぶよりも、秦と結んだ方が魏にとって利益があることを説き、その後で、
と、秦と同盟を結べば、他国から侵略される心配がなくなり、王も枕を高くして安心できると説得しています。これにより魏王の説得に見事成功し、魏は合従から離れます。「国の心配ごとがなくなる」と合わせて使われていることからも、「枕を高くする」が「安心する」という意味で使われていたと分かります。
それにしても、枕を高くするとどうして安心できるのでしょうか。枕が高くなると、首が急な角度で曲がり、寝づらく、場合によっては、頭痛、肩こりなどを引き起こしてしまい、とても安眠できません。疲れてしまい、安心などできなさそうに思います。これは、筆者も明確な根拠を示すことができないのですが、『大漢和辞典』によれば、枕が高いと、頭の位置が高くなって頭に血が上らなくなり、頭が冷えるので眠りやすいとのことです。
旅行先でいつもと違う枕になると眠りにくいので、家から枕を持って行く人がいます。しっかり眠れると、次の日の活力がまったく違うので、この気持ちはよく分かります。中国でも、睡眠と健康の関係に注目していたようで、家のどの位置に寝台を置くといいかが風水などで細かく定められ、寝台の神様までいたそうです。
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