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第10回 元首たちの古典教養その6―横看成嶺側成峯―|現代に生きる中国古典
- 2015/7/12
- 現代に生きる中国古典, 西川芳樹
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2014年6月18日、李克強総理は、イギリスの王立国際問題研究所で「共建包容发展的美好世界」という講演をしました。李克強は講演の中で、中国の社会と経済に関する現状報告をし、中国とイギリスの各方面での関係強化を訴えています。
報告では、GDP、貧富、工業など中国が抱える様々な問題が語られました。中国はGDPが世界第二位ですが、一人あたりのGDPは80位台であること。国民13億人の内、6億人は貧困を脱していますが、国際的な標準に当てはめると、2億人が貧困状態にあること。世界の工場と言われるほど工業が発達しているにもかかわらず、品質の低さ、省エネ、資源、環境問題など多くの問題を抱えていること。その他にも、一面的に捉えることが難しい各種の問題を紹介しています。
これらの問題点の紹介に先立ち、李克強は次にように述べています。
李克強の言う「古い詩」とは、蘇軾の「題西林詩」のことです。蘇軾は、旅の途中で名勝廬山に立ち寄り、その麓にある西林寺の壁に次のような詩を書き付けます。
廬山は、竒峰が林立し、見る位置が変われば新たな表情を見せて目を楽しませてくれます。この廬山のように、中国が抱える諸問題も、視点を変えて見てみればまったく別の側面が見えてきます。李克強は、複眼的に捉えることで、問題が総体的に把握されるべきであると述べているのでしょう。
李克強は講演で「題西林詩」の一句目のみを引用しました。しかし、三句目、四句目も箴言と言うべき味わいがあります。廬山の中にいると山の本当の姿が分からないように、事件の当事者は、分かっているようで全体を把握できていないことがあります。外から観察することで、はじめて事件の全体像が見えることもあるでしょう。この詩は、廬山の魅力を語るだけではなく、複眼的な観察の重要性を説く詩として再解釈できるのではないでしょうか。
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