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第4回 元首たちの古典教養その3―不积小流,无以成大海―|現代に生きる中国古典
- 2015/1/15
- 現代に生きる中国古典, 西川芳樹
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『三国志演義』で有名な劉備、関羽、張飛は、非常に強い信頼で結ばれていた。この信頼関係は、何十年も行動を共にする中で築かれたものであろう。本当の信頼関係、協力関係は、時間をかけて多くの問題を共にくぐり抜けた末に築かれるものだ。
今回、紹介するのは、中国の元国家主席である江沢民が、他国に協力関係を築くよう求めた言葉である。1997年、江沢民は、ウルグアイの大統領フリオ・マリア・サンギネッティと会談し、両国の経済と貿易の関係に話題が及んだ際に次のように述べた。
「不积小流,无以成大海」は、『荀子』勧学篇に見える言葉である。荀子は、戦国末期の思想家であり、「性悪説」で知られている。以下に、江沢民が引用した『荀子』の言葉を、該当部分の少し前から挙げる。
上に示した文章は、大きなことを成し遂げるには、小さなことを一つ一つ積み重ねていかなければならない、ということを述べている。そして、「不积小流,无以成大海」も、小さな川の流れを拒むことなく、すべての流れを受け入れるため、海はあれほどの大きさを誇るのであると、川と海に喩えることで、少しずつの積み重ねが最終的に大きな結果をもたらす、ということを説いている。
江沢民は、問題を一つ一つ解決していくことで、最終的には中国とウルグアイの経済的な結びつきが強固なものになるだろう、という意味で、この言葉を使ったのであろう。
『荀子』勧学篇は、その名が示すとおり、生涯をかけて学習と善い行いを続けることで理想に近づくことを説く内容である。学問は個人的な修養であり、本来の意味でこの言葉を使う機会は、先生が学生にお説教をする時ぐらいだろうか。だが、江沢民は、本来ならば個人に向けられた言葉を、両国の経済関係の発展へと応用した。江沢民の機知は、この言葉の使用範囲を一気に押し広げたと言えよう。現段階ではまだ十分な関係ではないが、将来に向かってより親密に関係を発展させたい相手に使ってみてはいかがだろうか。
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