第16回 元首たちの古典教養その9――凡交,近则必相糜以信,远则必忠之以言――|現代に生きる中国古典

 2006年4月、当時首相であった温家宝は、オーストラリア、ニュージーランド、フィジーそしてカンボジアを歴訪しました。忙しい外交日程の中、温家宝は、各地の華僑とも会談し、国が平和な環境をつくる方法として次のように述べました。

“凡交,近则必相糜以信,远则必忠之以言”,这就是告诉我们国与国相交要讲诚信、要讲忠实,这两点我们都做到了。(温家宝会见华侨华人侧记より
「凡交,近则必相糜以信,远则必忠之以言。」この言葉は、我々に、国と国の交流には誠実さと忠実さを重んじなければならないことを告げている。そして、この二つを我々は成し遂げてきた。

 温家宝が引いた「凡交,近则必相糜以信,远则必忠之以言」は、『荘子』「人間世」篇に見える言葉です。非常に長い文なので、温家宝が引いた言葉の前後だけを挙げることにします。
春秋時代、楚の葉公が斉へ外交に行く際、役目をきちんと果たすにはどうしたよいかを孔子にたずねました。すると孔子は答えます。

丘请复以所闻:凡交近则必相靡以信,远则必忠之以言,言必或传之。……
わたくしがもう一つ他人から聞いた話をさせてもらいますと、およそ交際というものは、相手が近ければ「信(真心)」をもって関係を結び、遠ければ言葉を用いて関係を誠実で確かなものにしなければなりません。……

 両国の関係を確かなものにするには、誠実な心で人間関係を築き、疎遠な者には言葉を用いて真心ある関係にする。「人而無信、不知其可也(人として信がなければ、うまくやっていけるはずがない)」(『論語』「為政篇」)など、人間関係の構築に「信」を重んじる孔子らしい言葉です。

 孔子は、上のように述べた後、さらに続けて、どのような言葉を使えば誠実な関係になれるのかをアドバイスしています。いわく、双方が喜んで相手を褒めすぎたり、双方が怒って相手を悪く言いすぎたりすると、言葉は度が過ぎたものになって事実から離れ、事実から離れると信用がなくなるので、ありのままに話すべきである。また、礼に従い酒を飲むと、始めは慎んでいるが、終わりにはきっと乱れ、極端な場合はとんでもない快楽を求めるように、上品に始まっても、終わりは乱れる。始めがいい加減では、終わりにはとんでもないことになるとも言っています。

 信頼関係を築くことの大切さ、このことは、国と国の関係だけではなく、人間関係、会社関係など、およそ人間が社会で作るさまざまな関係すべてについて言えることでしょう。胸襟を開いて話したい時、打ち明け話をする時などにこの言葉を使ってみてはどうでしょうか。

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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