第30回 元首たちの古典教養その16 ーー日出江花红胜火,春来江水绿如蓝。|現代に生きる中国古典

桜が散り、新緑の美しい季節になりました。中国でも春には、梅、杏、桃などの花が咲き、柳をはじめ多くの植物が新芽を伸ばします。さて、春の景色を詠んだ詩に、白居易の「憶江南」詩があります。

江南好,       江南はすばらしい。
风景旧曾谙。     その風景は以前から深く心に刻まれている。
日出江花红胜火,  日が出れば、花は火よりも紅に、
春来江水绿如蓝。     春になれば、江水は藍の如き緑色。
能不忆江南。    江南を思い出さずにいれようか。

この詩は、白居易がかつて住んでいた江南地方を思い出し詠んだ詩です。中でも「日出江花红胜火,春来江水绿如蓝。」は、春の景色の美しさを見事にとらえた言葉として古くから知られており、随筆や新聞、講演などで春が話題になると、よく引かれます。
春の景色を詠んだこの句ですが、朱鎔基元首相は少し変わった使い方をしています。1999年、第一回中国国際高度先端技術成果貿易商談会が深圳で開かれました。この開会式に出席した朱鎔基は、経済と社会の発展に科学技術は不可欠であると語り、演説の最後を以下のように締めくくりました。

放眼神州,“日出江花红胜火,春来江水绿如蓝”;展望未来,科技创新,前程似锦。让我们以科学的态度,创新的精神和百折不挠的意志,努力开拓人类发展的新世纪。(神州(中国の美称)に目をやると「日出江花红胜火,春来江水绿如蓝。」である。つまり、未来を展望し、新たな科学技術が創り出されれば、前途は輝かしいものである。科学的態度、新たなものを創りだす精神、そして不屈の意志で、人類発展の新世紀を切り開くよう努力しようではないか。)

ここでの「日出江花红胜火,春来江水绿如蓝。」は、春の景色ではなさそうです。朱鎔基と同時期に国家主席を務めた江沢民も別の演説でこの言葉を使い、次のように述べています。

同志们,朋友们,综观世界,风云变幻,几多沉浮;放言祖国,群情振奋,欣欣向荣。日出江花红胜火,春来江水绿如蓝。(同志のみなさん、友達のみなさん、総合的に世界を見れば、情勢は目まぐるしく移り、数多くの盛衰があります。祖国に目を向けると、人々が奮い立ち、活気にあふれています。「日出江花红胜火,春来江水绿如蓝」です。

以上の例から推すに、「日出江花红胜火,春来江水绿如蓝。」は、春の木々が夏に向けてすくすくと育つように、繁栄に向かい勢いよく成長する様を表しているのでしょう。古典を再解釈して、従来にはない新たな意味を付与したのです。

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西川芳樹関西大学非常勤講師

投稿者プロフィール

大阪府岸和田市出身。
関西大学文学研究科総合人文学専攻中国文学専修博士課程後期課程所定単位修得退学。
関西大学非常勤講師。
中国古典文学が専門。

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