日本では山間部を歩いていると「落石注意」という標識をよく見掛けます。ところで、この「落石」とはどういう意味でしょうか。「落ちてくる石」でしょうか。実はそうではありません。これは「石が落ちる」ということなのです。
「へえ?」と思われるかもしれませんが、このような構造の語は日本語の中にたくさんあります。「有名」「無名」「流血」「降雨」「漏電」「断腸」……など、いずれも後ろの名詞が前の動詞の「意味上の主体(主語)」になっているのです。実は、「隕石」という語も同じです。「隕石」の「隕」は「落ちる」ということで、「落石」と同じことなのです。
孔子に『春秋』という書物がありますが、その中に「隕石」の記述があります。
陨石于宋,五(宋に石が落ちた、5つあった)
中国人にとっても、この「隕石」という語順は特殊であるという意識があったのか、『春秋』の注釈(「公羊伝」)では「まずドスンと落ちる音を聞いて、見ると石であり、更によく調べると5つあった、ということを、感覚の受け入れるままに表現した文である」と説明しています。
このように、自然現象や突然起こった現象を表す文を「存現文」と呼んでいます。“刮风”(風が吹く)や“下雨”(雨が降る)という文が、その典型的なものです。「見知らぬ人が向こうからやってくる」という場合にも“前边来了一个人”というように、「ある人」が動詞の後ろに置かれます。日本語の漢文訓読では、動詞の後ろの目的語は「~を」となりますが、この文型では「~が」となります。また、この文の「意味上の主語」は「不定」のものです。従って、「降り続いていた雨がやむ」や、「特定の人、例えば彼がやってきた」という場合には、“雨住了”“他来了”のように普通の語順に戻ります。